PR

映画「花宵道中」感想

『花宵道中』基本情報

2014年 / 日本 (R15+指定作品)

  • 監督: 豊島圭介
  • 主演: 安達祐実
  • 原作:宮木あや子『花宵道中』(はなよいどうちゅう)
  • コミック: 2009年 『女性セブン』(小学館)/ 斉木久美子作画

スキ度: 2.0

ストーリー

7歳で山田屋に引き取られた朝霧は、体が熱を帯びると肌に赤い斑点が現れる様子から“躰に花を咲かせる遊女“として山田屋一の人気女郎へと成長した。ある日、朝霧は京からやってきた染物職人の青年・半次郎と出会う。朝霧は半次郎に胸の高まりを覚えるが……。

映画ナタリー

主なキャスト

役名俳優備考
朝霧安達祐実この映画の主人公。
母親に虐待を受けて育つ。母が死んだ7歳の時に霧里に拾われ、山田屋の女郎になる。
半次郎淵上泰史染物屋の職人で、朝霧と知り合う。
八津小篠恵奈朝霧の妹女郎。
霧里高岡早紀朝霧の姐女郎。
大島屋卯之吉松田賢二八津の客。
お勝友近山田屋の女将。
弥吉不破万作山田屋お抱えの、髪結い。
吉田屋藤衛門津田寛治朝霧の客。

感想

一時期、花魁が出てくる作品に興味が湧いて、いろいろ調べてるうちにこの作品に行き当たり、「え?安達祐実ちゃんが女郎役?」と、驚愕したものです。

映画公開が2014年。ということは、当時の祐実ちゃんは既に三十路を超えていたことになります(33歳)。

祐実ちゃんといえば「いくつになっても子供顔」の印象が強いので、女郎役をどう演じてるのか、観てみたい気にはなります。レビューサイトには祐実ちゃんの童顔が役に合わないと厳しい意見も並んでて、「そうかぁ、痛々しいのは観たくないしなぁ」と迷いました。

ただ、冷静に考えると、遊郭での水揚げの時期は15~16歳頃だといいます。それこそ幼さの残る時期ですよね。むしろ祐実ちゃんのような童顔こそ、廓の現実に近かったと、言えなくもない。

確か『吉原炎上』の名取裕子が撮影当時は28歳頃。祐実ちゃんよりほんの少し若い頃に演じてます。

名取裕子の場合、役としては19歳で売られてくるところから演じたので、当時は逆違和感が生じたはず。それでも彼女が選ばれたのは、遊郭という特殊な世界を舞台にするなら、演技力に加えて妖艶さも必要で、さすがに十代の女優にそれを求めるのは難しいからだったのでは?

となれば、30過ぎの安達祐実は、むしろ当たり役とも言えないですかね?

なぁ~んて切り替えて、再生ボタンを押しました。

役者揃えど…

さて、肝心の中身ですが、吉原を扱えばどうしても悲恋物語がつきもので、この映画もその筋からは抜け出せない定番のストーリーでした。

祐実ちゃん、綺麗だったし上手かった。高岡早紀さんも、花魁役を演じたらまず外さない。友近の女将っぷりも、最初こそ笑うべきか真面目に観るべきか戸惑ったけど、慣れると「ありだな」という感じになってたし。なにより津田寛治さんの憎まれっぷりは、いつもながらにお見事。

こうして一人一人の役者をみれば、それぞれに適材適所で配役されている。なのに、「いい映画を観たなぁ~」という気分になれなかったのは、なんでなんだろう・・・と、考えちゃいました。

「あの安達祐実が、女郎役に挑戦!」の看板に頼り過ぎたのかもね。

『花宵道中』原作

コミック版を読んでみました。

原作があると知って探してみると、コミカライズされたものもあり、文字だけより絵があったほうが分かりやすいかな?と、コミックのほうを読んでみました。

こんなこと書いちゃあれですが、なんか、無性に腹が立ちました。原作が良すぎて。

「別物やん・・・」

原作の小説は、短編5部+番外編の6部構成の短編集で、コミックも同じ流れで作成されています。コミカライズされる時にある程度の手直しがあるとは思いますが、かなり忠実に再現されてるみたいです。

これを読むと、映画が別物に変化したんだな…ということがわかります。

映画では、「ある女郎の悲恋物語がありました。ハイ、終了。」でした。

だけど、原作ではそんな単純な話ではないんですよ。

例えば、短編のタイトルは次のようになってます。

  • 第1部: 花宵道中
  • 第2部: 薄羽蜉蝣
  • 第3部: 青花牡丹
  • 第4部: 十六夜時雨
  • 第5部: 雪紐観音
  • 第6部: 大門切手(番外編)

これだけ見ると、いかにも第1部の「花宵道中」を映画にしたようですよね。

確かに「花宵道中」で主人公になっているのは朝霧という女郎なんですけど、ここで起きた事件は次の章に引き継がれます。

第2部の「薄羽蜉蝣」は、朝霧が面倒を見ていた八津の妹女郎のが主人公です。なんで八津を飛ばして茜なんだろう?と読み進めていくと、その謎は2部の最後でわかるようになっています。

そして3部が始まると、今度は別の女郎視点で物語が始まります。

こんな感じで、短編ごとに主人公が入れ替わり、時系列も前後します。

それぞれが独立したように見える短編なんですが、全体を通してちゃ~んと繋がりのある緻密な構成になってるので、読めば読むほど「はっ」とする場面が出てきて、「あの時のあの人の心情」がわかるようになってるんです。

第1部で半次郎の起こす刃傷沙汰も、全てが繋がった時に真相が見えてきます。かといって、小説全体にとって、この事件はほんの一部に過ぎません。

決してひとりの女郎だけに焦点を当てているのではなく、女たちの間で脈々と受け継がれていった「生」の物語が6つの短編を使って丁寧に綴られています。

人が変わり、時代が変わり、お互いは会ったことのない者同士でも、それぞれの出会いや別れがどこかで影響し合って次の「生」に繋がる、という大事な構成が、映画ではゴッソリ端折られてるんです。

源氏物語で言えば、『桐壺』をペラッと2、3行の思い出話で語るだけで『若紫』を描いた感じ。本来は群像劇であるにもかかわらず、製作都合でほんの一部を抜き出したに過ぎなかったんです。

なんで朝霧なのか、なんで半次郎が事件を起こしたのか。本当に大切な部分が削られてます。

厳しいことを言ってしまえば、安達祐実の新境地を演出するためのベースに使われただけになってるんですよ。結果、ステレオタイプの女郎物語になってしまったんですねぇ。返す返すも勿体ない。

あれだけの役者を揃えたなら、もう少し違う形で丁寧に描くこともできたろうに…

映画だけを観た後は、祐実ちゃんの頑張りで星4個くらい付けちゃおうかな…なんて思ったけど、原作を知った途端に星をむしり取ってしまいました。

この映画が原作の全てだと思われたとしたら、申し訳なさ過ぎます。

どうせ映像化するなら、何話かに分けてドラマ化したほうが、ずっと魅力ある作品になりそうだと思いました。いやぁ、実に残念ですよ。

映画で物足りなさを感じた方には、ぜひ原作を読んでいただきたいです。

参考

原作は、花宵道中、薄羽蜉蝣、青花牡丹、十六夜時雨、雪紐観音、大門切手(番外編)の6部の短編で構成されています。

新潮社主催の「女による女のためのR-18文学賞」第5回(2006年)大賞受賞作品で、官能小説ということのようです。どこまでエロイか読んでないのでわかりませんが…

文字を追うのが苦手な場合はコミックがおすすめ♪

コミックは全6巻です。

官能小説のコミカライズということになりますね。小説より抑えたのかもしれませんが、エロ漫画と言うようなものではなかったです。

タイトルとURLをコピーしました